【小説】未来の孫 3話


エマを見送った後、小浪はタブレット端末を両手に持って、

電子新聞やニュースアプリを閉じ、

映像通話アプリを起動した。

数秒後、画面上に眉毛の濃いハゲ頭で、

老眼鏡と作業服を着用した老人が現れた。嵐である。

この日、嵐は東松山の比企丘陵にて、学生時代の映画研究会OBの親友や、

自分の後輩にあたる大学生たちと一緒に、特撮を撮影していた。

2061年現在、映像の世界ではVR合成スタジオでの

動画撮影や編集が一般的である。

プロでなくとも、一般人がアイズのカメラアプリを使って

簡単に映画撮影できる時代だ。

しかし、そんなやり方が主流の今でも

彼は現地かつ実写での撮影を重視する主義だった。

嵐は、スタッフと一緒に複数のロボットを同時に操作して撮影している。

生物を模したロボットで、人間の撮影スタッフの代わりとなっていた。

各ロボットの形状は、ホタル、コウモリ、キリン、タコ、イカ、タヌキ。

ロボットたちには今時珍しくAIは搭載されておらず、

あくまでも撮影機材ロボとして機能した。

基本的に嵐やスタッフがリモコンで操作し撮影するか、

動きをコンピュータで制御していた。

いずれのロボットも、エマが生まれる以前に

エマの両親が嵐に贈ったものだった。

ホタルロボは、役者を照明の光やレフ板で照らし、

コウモリロボは、役者のクリアな音声をバッチリ録音し、

キリンロボは、クレーンカメラとしてダイナミックな動きで役者を撮影し、

タコロボは、飛行ドローンとして役者を色々な角度から撮影し、

イカロボは、特殊効果の煙や墨やチカチカする光を出したり、

タヌキロボは、怪獣の姿に変身して数分だけ役を演じたり、

そんなロボットたちと一緒に、

今日もみんなで楽しくロケ現場で作業をしていた。

監督、編集は主に映画研究会OBの親友が担当し、

嵐は脚本と制作進行を担当していた。

また、助監督、記録係、役者、衣装、

ヘアメイク、美術、CG合成、大道具、

小道具、持道具などは後輩である大学生たちが担当し、

それ以外の、カメラ、音声、照明、怪獣役の操演、

特殊効果はロボットたちが行なっていた。

ロボットたちは、映画研究会にとって

優れた撮影機材であり大切な仲間であった。

嵐はロボットを貰った日から、メンテナンスを欠かさずしている。

そして、ある場面の撮影がひと段落し、

嵐やスタッフたちは車の近くで休憩を取っていた。

「もしもし、嵐さんかい?今、お電話しても大丈夫?」

「はいはい。こちら、わし!今、ちょうど休憩中。」

嵐は、薄い長方形の手鏡のような通話機と

ワイヤレスイヤホン型マイクで通話しつつ、

黒く光るサーフボードのようなロボットを地面に置いて、

手持ちの工具でいじっていた。

「嵐さんや、今朝のニュースは見たかい?」

「わし、それはとっくに見た。あれは完全にヤバいな。」

「どうやら、友達の予測が当たったみたいだわ。」

「正直、個人識別番号とアイズを同期させる法案が

出た頃から変だと思ってた。」

「そうね。与党・・・いや、国会や政府そのものがもはや末期みたい。」

「わしは、随分前に現在の与党になってから、政府を全然信用してない。」

「どっちみち、今日、例の計画を絶対にやるぞ。」

「あい、わかった。動かし方はわかるかな?」

「嵐さんのおかげで、わかりやすいモンになった。

あれなら私でも大丈夫だわ。」

「よし、いいぞう。」

「嵐さんや、万が一のために言っておくぞ。」

「なんだろう?」

「アイラブユー。」

「わしもアイラブユーじゃ。小浪さん。」

「とにかく、私はエマちゃんに自由に生きてもらいたい。」

「当然、わしもそう思うわい。そのために今日やるのじゃろう?」

「ああ。私らはあの子を守らねばならぬ。」

「あっ、そろそろ撮影再開の時間じゃわい。また後での!」

通話映像はプツンと消えて、タブレット端末に「通話終了」の文字が現れた。

小浪は、タブレット端末をテーブルの上に置くと、荷造りを行った。

紫色の風呂敷に、小浪は古い道具を中心に次々と色々なものを入れてゆく。

薄い長方形の手鏡のような通話機「スマートフォン」とボロボロの充電器。

HB鉛筆と消しゴムの入ったペンケースと分厚いメモ帳。

数十年前に普及していた古い硬貨と紙幣が各種パンパンに入った財布。

平成時代に普及していた銀色の交通系ICカード。

平成時代の地図が載っている地図帳。

古ぼけたノート型のスケジュール帳。

エマ宛ての手紙と何処かの住所と電話番号が書かれた紙。

色褪せたカラー写真。そこには30代くらいの色白の作業服姿の女と、

眉毛が濃く肩幅のがっちりした男が仲良く笑顔で並んで写っている。

何かが録音された黒いカセットテープとポータブルカセット再生機、

嵐が数年前まで愛用していた電気キセル。

小浪の虫歯の臼歯2本が入った透明なガラス小瓶・・・

など、謎の品物ばかりである。

一通り荷造りが終わると、小浪は風呂敷包みをキュッと蝶々結びでしめた。

そのまま屋上へ行き、物置の中に入った。

中はサウナのように蒸し暑い。小浪は室内冷房のスイッチを入れた。

物置の中には、一台のバイクがあった。

外見は、大昔の蕎麦屋が出前で使いそうなバイクだ。

よく見ると、バイクのハンドル付近には謎のボタンが付いており、

本体にはトンボの羽のようなプロペラ機構が折り畳まれて付いていた。

小浪は、バイクがちゃんと動くかどうか入念にチェックをして、

紫色の風呂敷包みを座席シート下の収納スペースの中に入れた。

その後、小浪は外に出て庭の犬小屋でポチを撫で、

瞳をしっかり見て真剣な顔で話しかけた。

「ポチ、お前さんが頼りだ。」

小浪は、ポチの耳の後ろをさすり続けて呟いた。

「クゥーン。」

「お前さんにも、エマを守ってもらいたい。」

「ハフハフハフ。」

ポチは無邪気にクルンと丸まった尻尾をフリフリ振っている。

「頼むぞ、ポチ!」

小浪は真剣な眼差しでポチの目をしっかり見た。

ポチはつぶらな瞳で小浪を見つめ、尻尾を無邪気に振っていた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です