【小説】未来の孫 4話


高校に着くと、私は下駄箱の鍵をアイズで解除し、

運動靴に履き替えて体育館へ急いだ。

私はいつも写真部として、

クラスの友達がいる部活にお邪魔して撮影している。

毎回、様々な部活の友達や顧問の先生に頼んで、

「被写体」になってもらう許可を得る。

そのため、私は広く浅く、色々な部活の友達と交流し、

頼めば多くのクラスメイトがこころよく「被写体」になってくれた。

活躍中の自分をカッコよく撮影してもらえるのは嬉しいようだ。

もちろん、「これは撮影禁止。私は写りたくない。」

という、撮影禁止の要望も私はちゃんと聞くし、

現像後の写真はみんなに必ずチェックしてもらう。

今日の「被写体」は、バスケ部のみんなだ。

私は、水筒を肩から下げ、

ばあちゃんからもらった梅干し容器をポケットに入れて、

さらに首からフィルム式カメラを下げた。

体育館内は、クーラーがキンキンに効いていて涼しかった。

コートは網カーテンで半分に分けられていて、

バスケ部とバレー部が練習していた。

すでにバスケ部は準備運動を終えて、ドリブルの練習をしていた。

部員の元気な掛け声とともに、ボールの弾む音がダムダムダムと聞こえ、

キュッキュッとバスケットシューズが床に擦れる音がした。

隣のコートではバレー部が練習していた。私と同じクラスの男子が何人かいる。

バチーン!というスパイク音や、ボフッ!とサーブを打つ音が鳴り響く。

2061年現在、夏休みの運動部はどんな競技種目だろうと、

クーラーの効いた涼しい空間で水分補給しながら

運動をするのが常識となっている。

基本的に性別を問わず全員混合で部活をしている。

また、運動部の部活の顧問は、AI搭載の真っ白いダルマ型のロボット先生だ。

バスケ部のロボット先生の体には、

バスケットボールの絵と校章が印刷されている。

ロボット先生には、部活ごとに違う模様が入っているのである。

彼らは人間の先生みたいに励ましたり、

こちらを勇気付ける応援はしてくれないけど、

部活の生徒たちを上達させるため、

常に客観的かつ的確にデータ分析して指導してくれる。

友達の話によると、他校との試合時はロボ先生同士による

分析合戦になったりするらしい。

私はふと、おばあちゃんから聞いた話を思い出していた。

おばあちゃんが子供だった頃、

夏は暑い中で運動するのが「普通」とされていたらしい。

子供も今より多かったので男子○○部、

女子○○部といった表記が普通だったそうだ。

あと、一部の学校には物凄く変な先生がいたらしい。

生徒を理不尽に怒鳴ったり罵倒したり殴ったりする先生が実在したという。

うーん、そういう先生は考えただけで怖いし、本当に信じられない。

私はタイミングを見計らって、

バスケ部の部員たちと顧問のロボット先生に挨拶した。

「こんにちは。写真部の三田川(さんたがわ)エマです。

本日は宜しくお願いします!」

「宜しくお願いします!」バスケ部員たちが一斉に挨拶する。

「こんにちは。部長の木村です。危ないから、なるべく端っこで撮影してね。」

「はい!」彼女は強気そうな切れ長の目の美人で、

スラリと背が高く、黒いポニーテールだ。

凄くお姉さんっぽくて、思わず圧倒される。

私と同い年で高校2年のはずなんだけどね。

「三田川サン、ボールノ衝突ニハ気ヲツケテ下サイネ。」

ロボット先生が喋った。

「はい、先生!」私はその後、体育館の端や壇上で撮影を始めた。

バスケ部員たちが、素早い動きでスクエアパスや1on1を行っている。

私は必死にシャッターをカシャカシャ押しまくる。

カメラの絞り値、シャッタースピードを変えて、撮影しまくった。

たまに私の方にボールが飛んでくることもあるので、その度に回避していた。

これはおじいちゃんから譲ってもらった大事なカメラだし、壊れたらまずい。

ふと気がつくと、ロボット先生が部員たちを集めて何かをしゃべっている。

「皆サン、今カラ、60分間ノ食事休憩デス!」という声がハッキリ聞こえた。

私は、体育館を出て校内の休憩広場のベンチでおにぎりと梅干しを食べていた。

バスケ部員たちの他、隣のコートで練習していたバレー部員たちもぞろぞろと

体育館の外に出てきた。

「三田川さん、おつかれ~。」木村さんが出てきた。

「木村さん!おつかれさまで~す。」私はついつい敬語になる。

「おーっ!三田川じゃん。さっき写真撮ってたよな?ちょっと見せろよ!」

小柄で褐色肌の騒がしい男子と、大柄で物静かな色白な男子が歩いてきた。

「一也、大地、おつかれー。」

二人とも佐藤という名字なので、私は名前で呼んでる。

彼らは、さっきまで隣のコートに居たバレー部員。

私と同じクラスの男子だ。

「なあんだ。古いカメラかよ!撮ったやつ、すぐ見れないじゃん!」

「うるさいな~!別にいいでしょ!もう。」一也は基本的にうるさい。

大地は水筒の飲み物を一気にゴキュっと飲んで、

自販機で追加の飲み物や食べ物を買っていた。

一也は「マジ疲れたわ~。」と言ってベンチにゴロンと転がり、

Tシャツをせわしなくパタパタしている。

その後、男子たちは自販機で買った巨大おにぎりや

合成肉サンドイッチをモリモリ食べていた。

私はポケットの中から容器を出し、梅干しを一粒口に入れた。

凄くしょっぱい。思わず、顔が歪む。

「エマ?おつかれさん。どうしたの?」

バスケ部の友達、凛子ちゃんだ。

凛子ちゃんは解けかけた三つ編みヘアを結び直しながら、

私の隣にちょこんと座った。

「エマ、何食べてるの?」

「梅干し。ばあちゃんにもらった。」

「昔ながらの熱中症予防ってヤツ?」

「そうだよ。梅干しなんて・・・。」

「いいじゃん。ウチなんてナノマシンだよ?」

「凛子ちゃん、それって熱中症予防できるの?」

「うーん、よくわかんない!病院で飲まされて終わり!」

「簡単じゃん!それだけで予防できるの?」

「うん。そのかわり、値段が高いんだよね~。1万円かかる。」

「えっ、高くない?保険証見せてもそんなにかかるの?」

「そうだよ!おかげさまで私の昼ごはん、

しばらく業務食品の安い合成食だよ!」

「それはキツいな~。夕ご飯も合成食なの?」

「そうだよ~。」私と凛子ちゃんは苦笑いした。

「しかし、エマもよく頑張るよね。」

凛子ちゃんは合成チキンナゲットを食べながら話した。

「え?何が?」私は梅干しをもう一粒食べながら、返事をする。

「写真部だよ!部員さ、エマしかいないじゃん。他の子、来てないじゃん。」

「しょうがないよ~。フィルム式カメラを使えるの私ぐらいだもん。」

「エマ、指先が器用だもんね。私なんか、こんな古い機械わかんないよ。」

「ま、古いんだけどさ、暗室で写真が現像される時が楽しいんだよね~。」

私は、手元のカメラに触れながら、ため息混じりに会話を続けた。

「しかし、アイズって何でもできるんだよね、

写真撮影でも何でも・・・何だかなあ。」

凛子ちゃんの言う通り、

うちの写真部はいつのまにか部員が来なくなって今は実質私一人だ。

アイズの写真機能を使えば、まばたきするだけで簡単に写真が撮れる。

でも、私は昔の道具で写真を撮る方がワクワクする。

「本当、いつの間にか来なくなっちゃったんだよね。」と、私は続けた。

「ま、来ないもんはしょうがないよ。うちも来なくなった子、何人もいるし。」

ため息をつく凛子ちゃん。そっか、バスケ部も同じなのね。

私と凛子ちゃんの間に、やや微妙な空気が流れたその時、

「おーい、お前らさぁ!お祭り行くの~?」

一也のうるさい声がする。

一也はいつの間にか、廊下の壁にある「巨大掲示板パネル」を起動させ、

SNSとネット掲示板のページを、

アイズを使って自分のIDとパスで開いて見ていた。

「シーッ!声が大きいって!」私は唇に人差し指を当てて、一也に注意した。

「巨大掲示板パネル」は比喩ではなく、物理的に大きい。

縦2m、横50mという横に細長い掲示板である。

それが休憩所と廊下の壁面にあるのだ。

そこには様々なSNSやネット掲示板やスレッドが乱立していた。

他、紙に印刷された「校内新聞アナログ版」や、「先生からのお知らせ」

「PTAからのお知らせ」などの掲示物も一緒にペタペタ貼られていた。

つまり、デジタルとアナログの入り混じった掲示板である。

ちなみに、うちの学校の校則だと「お祭り参加禁止」というものがある。

私が入学する何年も前に決められた妙な校則らしい。

先生に見つかると、反省文を書かされた上に内申書に響くという噂だ。

で、先生がどこかで聞いているかもしれないのに、

一也は大きい声で祭りのことをペラペラ話す。

「おーい聞いてる?三田川と凛子さ、お前らも行くの?」

凛子ちゃんも佐藤という名字だ。

非常に多い名字ゆえ、彼女もみんなから名前で呼ばれてる。

「行くけどさ、あんたはちょっと静かにして。頼むからボリューム下げて。」

「そうだよ。一也くん、ちょっと静かにしなよ!先生が来ちゃうよ!」

男子らと会話しつつ、私と凛子ちゃんも巨大掲示板を指先でなぞり、

SNSやネット掲示板から「彗星納涼祭」の記事を読んでいた。

また、「アイズ特別ポイントゲットチャンス抽選会」のお知らせや、

何日か前に突然SNSに浮上した「神隠しの噂」を熟読していた。

「神隠しの噂」とは、ホラーな噂である。

夏の季節に開催されるお祭りに未成年の子供だけで参加し、

屋台の物を飲み食いした子供は必ず忽然と姿を消す。というもの。

東京だけでなく日本中で次々と新たな噂が発生し、考察や持論が飛び交い、

ネット掲示板の都市伝説系のスレッドは、この噂で話が持ちきりだった。

噂は一人歩きして変容したり内容がエスカレートしており、真偽は不明。

ただ、6月ごろから、

日本の各地で何人も子供が行方不明になっているのは事実だ。

いなくなった子供たちは未だに見つかっていない。

そのため、うちのおばあちゃんや学校の先生は「気をつけなさい。」

と、よく言う。

「エマ、神隠しの噂って、どう思う?」

「先生たちが適当に流した噂じゃないの?

この学校さ、お祭り参加禁止じゃん。」

「信じられないよね~。それに今時、神隠しとかさ!あ、ありえないよね!」

「大丈夫よ!私たちアイズあるじゃん。緊急事態になったらAIが助けてくれるし。」

「そ、そうよね?みんなで行けば行方不明になるわけないもんね!!」

どうやら、凛子ちゃんはこの手の噂が苦手らしい。やや、声が震えている。

「でもさ、なんか・・・怖くない?エマは平気なの?」

凛子ちゃんは不安そうな顔をしつつ、ネット掲示板を夢中で見ている。

「そうかなあ?」私はあんまりこの手の噂は信じない。

「お祭りに行って、いなくなるってさ・・・

多分、悪い大人に連れさらわれちゃうんだよ?」

「うんうん。」

「で、場合によってはネット上の裏動画で

見世物にされた姿で発見されたって噂なんだって。」

「これさ、ただのタチの悪い噂でしょう?」

私は休憩所のみんなに向かって、次のように聞いた。

「ねぇ、神隠しの噂を確かめた人、この中に誰かいる?」

シーン

「あれ、いないの?誰も確かめてないの?」

「いやいやいや、エマ、やめて。やっぱ、ちょっと怖いって。」

「大丈夫だよ!俺とこいつも行くし!心配すんなよ凛子!」

よし、いいぞ一也!

「みんなで行けば大丈夫だよ!

今日それも含めてみんなで確かめてみようよ。」

「俺、アイズ特別ポイント抽選会さ、気になるっぺよ。」

大地がボソっと言った。

「あれ、イイよな!俺、参加賞だけでもいいや。十分な金になるし。」

「んだ!」

あっという間に休憩時間は終わった。

木村さんがこちらに来るのが見える。

「みんな!そろそろ練習再開するよー!早く来て!」

と、彼女は呼んだ。

「じゃ、戻ろっか。」

「そうだねー。」私たちは早足で体育館へ戻った。

バスケ部員たちは休憩後にササっと体育館へ戻り、

リバウンドキャッチ練習をした後、

有り余る体力で「先輩VS後輩」の試合を行い、

体育館のコートをひたすら走りまくっていた。

汗が飛び散る試合の様子がファインダー越しによく見えた。

バスケは、ボールが相手チームの手に渡るたびに

攻撃と守備が瞬時に切り替わる。

ボールも人も速く激しく動くので、

追うのが大変。私は汗だくになっていた。

シャッタースピードを変えても、

みんなにピントを合わせるのが大変だ。

手ブレ補正の無いカメラだから、現像したらどんな写真になるのだろう?

クーラーの効いた体育館とはいえ、運動量が多いと体は自然と熱くなる。

ロボット先生がホイッスルを鳴らして、試合終了。

クールダウンの柔軟運動後、整列して集合し、

ロボット先生の話をみんなで聞いていた。

「皆サン、オ疲レ様デシタ。ナルベク早ク帰宅シテ、ユックリ休ンデ下サイ。」

「はい!!!」

「来月、他校トノ練習試合ガアリマスノデ、体調ニハ注意シテ下サイ。」

「はい!!!」

「今ハ、夏休ミ中デスガ、ハメヲ外シ過ギナイヨウニシテ下サイ。」

「はい!!!」

「ソレカラ、学校カラノ注意デスガ、夏ノ祭リハ危険ナノデ、行クノハ禁止デス。」

「え~。」

「絶対ニ禁止デス。トニカク禁止デス。ワカリマシタカ?」

先生、随分と念を押すなぁ。

「・・・はーい。」

部員のみんな、しょぼくれた顔をしてるけど、本当は行く気満々だからね。

そんな感じで練習が無事に終わり、

体育館の床を犬のようなモップロボが掃除する中、

私と友達は、更衣室で私服に着替えていた。

私は身体中の汗を拭った後、

カバンから平べったい「衣装カートリッジ」を取り出し、

更衣室のトイレ横にある「着付け部屋」に入って鍵をかけ、

姿見鏡の一番下を見た。

衣装カートリッジを差し込む部分と、ボタンがある。

「ここにカートリッジを差して・・・と。」

私は、衣装カートリッジを差し込んで「開始ボタン」を押した。

姿見鏡に浮かび上がる表示や音声案内によって、私はカカシのポーズをとった。

姿見鏡から「では、行きますよ。3、2、1、パシャ!」

という音声が聞こえ、目を開けると、

白地に紫と水色とピンクの朝顔柄の浴衣姿の私が映っていた。

着付けに成功した!けど、なんだか丈が短めだったみたい。

足首とすねがバッチリ出ている。

鏡で背中を見ると、黄色い帯がリボン形にキュッと締められている。

草履は持っていないので、自宅から履いてきたシューズをそのまま履いた。

そして、私は凛子ちゃんや木村さんと一緒にバス停に向かった。

「エマ、浴衣着たの?かわいい!」

「えへへ。良いでしょ?」私はクルクルとその場でターンし、浴衣を二人に見せた。

「似合ってるよ。さ、お祭りに行きましょ。」木村さんが早足で歩く。

バレー部の男子たちは、居なかった。

どうやら一足早く先に会場へ向かっていったみたい。

徐々に陽が沈み、西の空には薄く青白い光がほのかに見え始めていた。

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