【小説】未来の孫 5話


高校の近くにあるバス停から、都営の水上バスに乗る。

私もみんなもワクワクしていた。

「楽しみだねー!」

「うん、凄く楽しみ。」

「発車します。揺れますので、おつかまりください。」

水上バスが水面をザバーッと走り出し、私はふと、西の空を見た。

すると、青白く大きな尻尾のような光が天に細長く伸びていた。

「ねぇねぇ、見て!あれ彗星じゃない?」

「え?あれなの?信じられない。あんなに大きいの?」

「凄いね!」私たちは彗星を見て、口々に驚いていた。

水上バスは、自動運転によって水面をスムーズに走り、

あっという間に私たちを東京湾方面へ連れて行く。

時が経つごとに夜空は暗くなり、

青白く燃える巨大彗星が西の空にハッキリと見える。

若洲海浜公園に着くと、潮風で風力発電が回っているのが見えた。

東京ゲートブリッジが恐竜の骨のようにライトアップされている。

私たちが彗星納涼祭の会場に着くと、

すでに提灯が各地に飾られて屋台が立ち並び、

やぐらが公園の中心に組まれ、その周りで盆踊りが行われていた。

賑やかな祭囃子の笛の音と太鼓がピーヒャラ♪テンツク♪と聞こえる。

会場の入り口で私はアイズをスキャンして、

「チケットデータ」と専用アプリをもらった。

それは宝くじソックリで、アイズ越しに

私の目の前に一瞬だけチケットの画像が浮かんだ。

この電子チケットは、「特別ポイントゲットチャンス」の抽選会で使える。

チケット画像には、数字の羅列がある。

どうやら、これを抽選の時に読み取るらしい。

私は、ハレー彗星や友達の様子をカメラで撮影していた。

「エマも一緒に撮ろうよ!」凛子ちゃんが、こっちこっちと手招きしてる。

「じゃ、タイマーかけるわ・・・よし、みんな撮るよ!」

「はい、笑って~!!!」           

「5.4.3.2.1・・・カシャ!」私、凛子ちゃん、木村さんの3人で撮った。

「現像したら、みんなにあげるね~。」

「わーい。ありがと!」「楽しみ♪」

「あれ?あっちに屋台あるよね?」凛子ちゃんは屋台を見つけたらしい。

「なんか、すっごく良い匂いする!」木村さんもそれに続く。

「行こ!行こ!」もちろん私も空腹で限界だった。

記念写真を撮影後、私たちは彗星そっちのけで屋台に駆け寄り、

屋台飯を夢中で食べていた。

屋台には、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、かき氷、ソースせんべい、あんず飴、イカ焼き、唐揚げ、フランクフルト、肉の串焼き、コットンキャンディ、

フライドポテト、グルグルソーセージ、飴細工などがあった。

「おーい!お前ら何食ってんの?」聞き覚えのある騒がしい声がする。

「三田川、そげな浴衣さ着で、どうしたっぺ?」この方言も聞き覚えがある。

「あっ、一也くんと大地くんだ!」凛子ちゃんが真っ先に反応した。

「私、グルグルソーセージ食べてるよ!」

と、私はグルグルソーセージの串を彼らに見せた。

「佐藤くん達!唐揚げ、美味しいわよ!」

と、木村さんが唐揚げを頬張りながら言う。

「肉汁がすげぇな。三田川、口の周りすげぇベタベタじゃん!」

「うるさいなー、もー。」

「木村、珍しいな。お前も祭りさ来たんか?」

「そうよ。悪い?」「いや、別になんでも無ェよ。」

「ところでお前らさ、チケットもらったの?」

一也が何かを企むような表情で私たちに聞く。

「もらったよ。」「うん。」「もらったわ。」

「俺に頂戴!抽選会の後、平和島のVRカジノで当てて倍にして返す!」

「はぁ?一也、あんた何言ってんの?」

私たちは一斉に同じセリフを言っていた。

「え~、ダメ?馬の夜レースだからVRパチンコより当てる自信あるよ?」

一也はヘラヘラ笑う。

「一也くん、ギャンブルはダメだよ!お巡りさんにつかまっちゃうよ?」

凛子ちゃん、こんな奴を心配することないって。

「あ、あげるわけないでしょ!バカじゃないの?本当にあんたは何言ってんのよ!」

そう言って、私は一也のバカさに呆れ返っていた。

さすがに未成年でギャンブルはダメでしょ。

「呆れた。ねぇ大地、あなたも黙ってないで一也に何か言ったらどうなの?」

木村さんは冷たい目で、大地に注意を促した。

「んだ・・・なんか、色々とすまねェなァ。一也、そろそろ行くぞ。」

「ちぇっ、ダメか~!」

「もう!あっち行きなさいよ!しっしっ!」

私は思わず片手で払いのけるポーズをした。

「じゃーな!」立ち去る男子たち。

「エマ、ちょっと、ソースが垂れてるよ!」

「あぁっ!ごめん凛子ちゃん。」

「もう、あの子は本当にしょうがない男ね。ため息出ちゃうわ。」

「本当ですね・・・木村さん。」

しばらくして、会場内アナウンスが入った。

ピーンポーンパーンポーン♪

「えー、会場にお越しの皆様にお知らせします。

まもなく、特別ポイントゲットチャンスのお時間です。

チケットデータを用意して、会場専用アプリを起動してお待ち下さい。

繰り返します・・・」

「今の聞いた?」私は思わず反応した。

「聞いた聞いた。」木村さんがうなづく。

「いよいよだね!」凛子ちゃんがわくわくしている。

私はアイズで会場専用アプリを開いて抽選会ページを開いて、

賞金リストを読み上げた。

「確か、1等が1億ポイント、2等が5000万ポイント、3等が1000万ポイント、

4等が500万ポイント、5等が100万ポイント、参加賞が1万ポイント。」

同じく、凛子ちゃんと木村さんもアプリで抽選会ページを開いている。

「外れても、参加賞が必ず当たるんだよね?」

凛子ちゃんは私と木村さんに確認する。

「1万ポイントって凄くない?おいしすぎない?」

凛子ちゃんの目がキラキラしている。

「使用期限が1ヶ月以上あるのも良いわよね。」木村さんは静かにつぶやく。

「ねぇ、もし1億ポイント当たったら、どうする?」私は二人に聞いた。

「わかんない!全然想像できないよ。」

「そうね、私もわからないわ。」二人とも同じ答えだ。

アイズは、毎日公式アプリにログインするとポイントをもらえる。

ポイントはお金の代わりとして買い物で使うことができる。

貯めることもできるが使用期限が通常は2週間であり、

使わないと自動的に消える。

彗星納涼祭の「特別ポイントゲットチャンス」は、

欲しいものがたくさんある私たちにとって、

非常に魅力的な抽選イベントであった。

アナウンスが再び会場内に流される。

ピーンポーンパーンポーン♪

「皆様、大変お待たせ致しました!ただ今より、抽選会を始めます!」

会場から、ワーッと大歓声が起こった。

「皆様、チケットのご用意は宜しいでしょうか?」

「はーい!」と、応答する声が一斉に上がった。

「では、アプリを起動させて、チケットデータの数字を読み取って下さい!」

会場のお客さんたちは、チケットデータを一斉にスキャンした。

もちろん、私と友達のみんなもスキャンする!

アプリで数字の羅列を読み取ると、自動的に抽選が始まる。

私のアイズ越しの視界には巨大なルーレットが浮かび上がった。

ルーレットには1等、2等、3等、4等、5等、ハズレと書かれており、

針がくるくると回っていた。演出上、サイケデリックな光がチカチカしている。

私は、こめかみがズキズキと痛くなり、

両手が勝手にカタカタと震え出していた。

「ううっ。」何か喉の奥から酸っぱいものが、じわじわとこみ上げてくる。

お腹が気持ちが悪い。

私は思わず目を閉じ、その場にしゃがみこんだ。

しかし、それでも脳内にルーレットの針と光が

チカチカ回り続ける映像が出てくる。

周囲で、ドサッ、バタッと人が次々と倒れ始めるのを感じた。

人々の倒れる音やうめき声は、盆踊りの祭囃子にかき消されていた。

私は目の前が真っ暗になり、心臓がバクバクバクバク速く動くのを感じ、

呼吸するのも辛く、凄く胸の奥がチクチク苦しくなって、その場に倒れた。

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